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枝幸〜羅臼


6月18日

出発のための荷造りを終わったところで雨が降ってきた。待てども止む気配はなくかえって強くなってゆくので、もう一日ここにいる事にした。する事がないので近くの古本屋で5冊ほど買ってきて一日中読みふける。これこそ「晴走雨読」である。
北海道へ来て一週間が経った。大自然に感動する一方、その自然が少しずつ失われているのが悲しい、というより腹立たしい。本州でも山河を無意味に削り取る公共工事なんかを見るとむかつくが、北海道では自然が圧倒的に美しいため、その一部が傷つけられると異常に目立つ。いくら地元経済のため、雇用対策のためとは言えこれはほとんど犯罪やないか。私は現代において最も罪な行為の一つが生態系のバランスを壊す事だとおもう。そりゃもちろん自分だってバイクで来て排気ガスを撒き散らすし、結局同じ穴の狢だと言われるかもしれないが、それでも少なくともゴミはその辺に捨てないようにしたり、むやみに草木を引き抜いたりしないよう気をつけたりはしているつもりだ。そこへいくと、この官民あげての集団破壊活動は気遣いのかけらもない。確かに人間いくら自然を蹂躪しても自然の方は一向に困らないが、後で困るのは人間の方ではないか。人間といえ自然の一部であるという認識をみんなが持たないと後でひどいしっぺ返しが来るのは間違いない。


6月19日

枝幸を朝早く発ち、再び林道へ向かう。 今日は美深歌登大規模林道(通称道北スーパー林道)だ。全長35kmのダートは結構走りやすいが、山菜採りの地元の車が多く快適に走り抜ける事は出来ない。それでもちょうど半分ほど走ったところで函岳 (1,129m) 方面への支線が延びており、こちらの方は見晴らしも最高で頂上までの10数キロを噛みしめるようにゆっくり走った(ホントはは崖道にガードレールが無くて怖くて走れなかったんやけど)。林道の後は美深から少し走ったところにある松山湿原だ。なんとなく北海道っぽくない名前だが、歩いて30分程登ってたどり着いたその湿原は、思わずはっとしてしまうほどの幻想的な光景だ。まるで水墨画の中に入ってしまったようなそんな感じだ。エゾマツ、トドマツの原生林が深い霧で被われた頂上は、ひんやりとした湿った空気が立ち込め、周りは何も聞こえない静寂の世界だ。今まで見てきた大パノラマとは一味違う、北海道のもう一つのデリケートな側面に触れた気がした。
松山湿原を下る頃から寒くなりはじめ、小雨も降ってきたので温泉へ行く事にする。近くの五味温泉という所で体を温め再び走り出す。通過した下川町はさびれた町だが、レトロな建物があちこちに残され、なかなかいい感じのさびれ方である。時間に余裕があれば泊まりたい場所である。さらに雨の中数10km走り、再びオホーツク海へ出る。今日は興部の無料宿泊所に泊まる。列車を改造した部屋はとても寒く、タイで買ったウインドブレーカーのような寝袋ではつらい。幸い先客ライダー二人の酒盛りに混ぜてもらい暖まって寝る。


6月20日

朝から定食屋でラーメンライスを平らげ、さあ今日も走ろう。まずは紋別のオムサロ原生花園とオムサロ遺跡。遺跡は縄文時代の約30棟の集落跡で、家屋や倉庫の一部が復元され中に入れるようになっている。何千年の前の人々の生活の跡が、わずかとはいえ現在まで残っていることにすごさを感じる。規模から言えばピラミッドとかには遠く及ばないが、当時の王様が金に糸目をかけず作った構造物よりも、自然と共存しながら静かに暮らしていたであろうオムサロの人々の集落跡に私は惹かれる。さてオムサロの次はサロマ湖だ。この日本第三の湖はオホーツク海と細い砂匙で隔てられているが、一部海とつながっている所があって(70年程前につながったらしい)、その境界線あたりに行って水をなめてみたら予想通りちょっとだけ塩辛い味だった。時間があるとしょうもない事をしてみたくなるものである。夕方網走に入り、少し時間があったので北方民族博物館に入った。ここでも新しい発見。北海道には大昔の一時期(5〜10世紀)モヨロ人というヨーロッパ系の人が住んでいたという。彼らはオホーツク文化という独自の文化を持ち、アイヌ人ともかなり交流していたようだ。古代アイヌの土器などにもその影響が見られるが、10世紀ごろ突然北海道の地から姿を消したらしい。おそらくアイヌとの勢力争いに敗れ北へ退いたのだろうと推測されていたが、なんともミステリアスな民族である。いまでもアイヌ人の中にいかにもヨーロッパ系の顔をした人がいるが、先祖の誰かにモヨロ人がいたのだろうか?
今日の宿泊は民宿ランプ別館である。すなわち民宿ランプがやっているライダーハウスである(一泊800円)。民宿の風呂にも入れるし、居間も使えるのでここはおすすめ。宿のおじさんもとても感じの良い人だ。

サロマ湖


6月21日

今日も色々な所へいった。網走刑務所博物館、現網走刑務所、小清水原生花園、斜里町のダート道、オシンコシンの滝、岩尾別温泉、カムイワッカの湯の滝、知床五湖、知床峠。見所があまりにも多いため、道東に入ると移動ペースが落ちる。本日のハイライトはやっぱりカムイワッカ湯の滝だ。もう結構有名になっているが、実際に行ってみると本当に不思議なところだ。川から温泉が流れ落ちてくる!普通は下から湧いてくるものが上から落ちてくるとは...入口で服と靴を脱ぎ生あたたかい川&滝を20分ほど上流に歩いていくと(それも川沿いじゃなくて川の中を通って登るのだ)、いくつかの温度が違う滝壷がありそこで入浴するという訳だ。世界広しと言えどもこんなのはあまりお目にかかれないであろう。カムイワッカより10kmほど手前にある岩尾別温泉もなかなか良い露天風呂だ。なかなか高級そうな一軒宿のすぐそばにあるのだがこちらも無料で入れる。この時ちょうど宿の前で伊達公子がプリウスのCM撮りをしていた。帰りの道端でシカが集団で草を食べていたのを見ていると、CMキャラバンカーも前を通り、車の中で伊達公子がシカを指差して騒いでいた。それと知床峠からの国後島の景色も印象的だった。初めて北方領土を見たが、こんなに間近にあるとは知らなかった。こんなんどう見ても日本領やで!
この日の宿泊は羅臼の熊の湯国設キャンプ場(無料)だ。


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